■ゴメンけど、巻いていこう
「さて! いい加減読者の皆様も設定をはじめあらゆる目的を忘れていそうなのでここで再度設定を説明しましょう!」
…………
「まずは主人公西神楽君! ニシカグラ君、ですよ! すごく読みにくいですけどネ。それから私こと『鹿』! 西神楽君のパートナーです! 容姿端麗! 性格最高の超級美少女です! パートナー具合は大体NHKで放送できるくらいのレベルですよ。期待しすぎはムダです。脳内で再生してください!」
……う
「そしてお隣のオタクさん! 結構いい人ですよ、 私にかわいい服もくれるんです! アニメソングは大好きと共に西神楽君との戦争の手段でもあるんです! パレスチナ・イスラエル軍の投石紛争と同じ状況ですね! 暴力にまさる西神楽君にアニメソングで対抗なんて素晴らしいです! 民衆の力強さを感じますネ!」
……ぐ……う
「私の最高のパートナーシップのおかげで西神楽君の作戦はさくさく進むんです! 今回の作戦も順調に進んでもう後は締めだけです! いいですね、たとえ本人がダメダメでも相方によって人はいくらでも上に進んでいけるんです! いわば私はカンニングの竹」
ぷッツン
「――ッ るせええエエエぇぇぇぇぇ!! この鹿がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
握ったまま眠ったらしい缶ビールを握りつぶすと、そのまま(なぜか)玄関に向かって笑顔で話す鹿に走りよって胸倉を締め上げる。
「朝からごちゃごちゃごちゃごちゃと騒ぎやがってぇ! 大体最初の説明の部分俺のところ全部省きやがって、名前だけ説明してどうすんだ! 自分のところは超級美少女って勝手に説明しやがってぇぇぇ! あの書き方じゃ俺よりオタク野朗のほうが感じよすぎだろ! それから実在のコンビ名を伏字無しで公開するなっつってんだろうがぁぁぁぁ!!」
しかし一気にまくし立ててぐらぐらぐらぐらと首を揺らしても、鹿はアハハと笑って笑顔だった。
「おはようございます西神楽君。今日もハイテンションがしっかり根付いてますね。読者からは多少『ウザイ』との発言があるにもかかわらず暑苦しいほどのノリです。それから、読者はどうあれ私のランキングでは西神楽君がダントツで一位ですからそれほど気にすることはありません。二位が細木和子で、三位がオタクさんです」
「ざけんな! そんなランキングがあるか! 二位以下を見ればろくなランキングじゃないのが目に浮かぶわ!」
――スキスキスキ〜ドッキン♪
俺は振り返って走り出し、壁に到達するとフックを叩き込む。
「ウラァ! テメエも調子乗ってんじゃねえぞ! イスラエル軍は投石した市民の頭撃って皆殺しにしたんだからな! 俺達に国連はねえぞ!」
「ブラック過ぎますよ西神楽君、非戦主義の方に睨まれ――」
閑話休題
「……さて」
俺はさっさっと着替えてから朝食の料理に取り掛かった。
卵に絡めたパンをフライパンで焼き、砂糖をまぶす。
「いやあ、やっぱり朝はアニソンとアイスに限りますね」
「死んでくれ」
相変わらず狭いこの空間は隣からのアホなオタク音楽……通称アニソンに満たされ、ついでに変態の鹿は昨日の騒ぎなど綺麗さっぱり記憶からなくし、朝のニュースを見てアイスをほおばる……という状況。
「なあ、いい加減あの子達を何とかしないと……」
「そうですねぇ……はむ……ミッションが成功しないと……はむ……給料も上がらないし……はむ……あ、目覚ましテレビだ……ああ、『恋に落ちたら』いいな……はむ……そういえばビデオ借りたばっかりだっけ」
「会話の内容を一つに統合しろ」
俺は出来上がった朝食を運びながら鹿の頭を軽く小突いた。まったく、カンベンして欲しい。
「いたた……フン、イーだ!」
鹿は思いっきりすねた顔してそっぽを向く。なにやってんだか。
「とりあえず、どうするよ今日は。前回の写真みたいなのはもう嫌だからな。ほんとにつかまると思った……」
「もちろん今回も二人をくっつける作戦を始動です! 実は昨日同僚からいいテープをもらってきたのです」
そういいながら鹿はテープとテープレコーダーを取り出した。俺はそれを見ながら、鹿の向かいになるように椅子に座る。
「同僚? お前以外にも鹿みたいなのがいるのか?」
「ええ、みんなトナカイですけどね」
言いながら、鹿はカチャリと再生ボタンを押した。
――俺? 好きな子なんていないって……ホントだってば! ちょっ……さわぐなよ〜
鹿はそこでいきなり停止ボタンを押した。
「どうです? チャンスじゃありませんか?」
…………
「……いや、何がよ」
「あれ? わからないんですか? おかしいですね……私と西神楽君の電波相性は抜群なはずなのに」
そういうと鹿は、両手をピースの形に変えて、自分の額にそれをあわせてつけた。
「テレパス!」
…………
「どうしたんですか? 遠い目をして」
「……たぶん、お前が思ってる以上に地球は発展してないからテレパスは無理だな」
「あれ、そうですか?」
「ああ、それが通用するのはコリン星だけだ」
「その星ってどこに――」
俺はテープレコーダーを手に取ると、アイスを口の端につけている鹿のまん前に突き出した。
「テープの意味を教えてくれ」
「ああ、しょうがないですね。色々並列化もできて便利なんですが……言葉で伝えるとしましょう」
鹿は食べていたアイスのカップを台所のゴミ箱に放り込むと、えへん、と大仰に胸をそらした。
「今朝私の仲間がうちに来てくれました。そこでこのテープを渡してくれたのです」
「んで?」
「なんでもこれは、あのサッカー少年、ユウジ君(前回参照)の肉声だそうです! つまり、今ユウジ君に好きな人はいない、チャンスなわけです!」
俺はしばらく考えて、それから「ふーん」と答えた。特に感想ないし。
「あら、リアクションが薄いですね」
「いや、どっちにしろ状況かわんねえじゃん、とか」
それを聞くと、鹿は外人さんがよくやる「やれやれ」のポーズを作って鼻で俺を笑った。
「わかってませんね。女の子にとってここはとても重要なのです。相手に好きな人がいたりなんかしたら最悪じゃないですか」
「それを乗り越えてでも振り返らせるとか……」
「甘い!」
鹿はいきなり机をバンッとたたき、おれに詰め寄った。鼻が触れ合うくらいまで顔を近づけ、睨みつける。肩までの髪が顔にかかる。
「うわッ」
「恋愛はそんな簡単じゃないんです! いわば戦争のようなものです。もっとリアリティをもって恋愛戦争に臨んでくれないと、すぐに死ぬことになりますよ! ラムズフェルド国防長官が夢を語ってはいけないのです! スターウォーズより、宇宙戦争です!」
「どっちもまだ内容わかんねえよ!」
俺は鹿を突き飛ばす。鹿は
「はわわ……」
とバランスを崩して椅子に倒れこんだ。アホ、そして変態め。
「とにかく出かけるんだろ」
俺は食べ終わった朝食の食器を持って、台所に向かった。蛇口をひねり、水を出してから鹿をビシッと指差す。
「出かける準備、さっさとしとけよ」
「ふん、イーだ!」
鹿はまた不満そうにそっぽを向くと、椅子にかけてあったジーンズを手にして押入れに飛び込んだ。
「のぞかないでくださいよ、チェリーボーイ!」
「うるせえ変態、チェリーじゃねえ!」
こうして俺の中での朝の風景は姿を消し……
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